友のようなワイン

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ワインのお目覚め

先日、ずっとセラーの中で眠らせていた古いボルドーワインを開けた。
恐らくこんなに長く眠らせておくべきワインではないと思うのだが、ついつい飲む機会を失ってしまい、ずっと手つかずのまま御年13歳になっていた。

おかしなタイミング

2011年の東日本大震災のとき、実は私は午後から仕事の予定が空いたという友人を自宅に招いてワインを開けようとしていた。
ワインに合わせた料理を作りながらリビングのテーブルの上に抜栓したボトルとワイングラスを並べ、キッチンで料理の仕上げをしているところにあの悪夢のような揺れが始まった。

意外な無被害

揺れが少しおさまってから外に避難し、いろんな混乱を経て家に戻ると、家の中は物が倒れたり壊れたりでメチャクチャになっていて、靴を履いたままでなければ家の中を歩けない状態だった。
そんな中、ワインセラーを置いていた部屋はもともと物をそんなに置いていなかったこともあり比較的被害が少なく、ワインがセラーの中から数本カーペットの上に飛び出してはいたが割れているものはなかった

友のようなボトルたち

震災後、結局は遠い土地に自主避難することになったのだが、そのときセラーの中のワインも全部一緒に持ってきた。
いろんな物がほとんど壊れて失われてしまったあの酷い状況で1本も割れることなく、共に新しい土地にやってきたそのボトルたちは、なんだか一緒にピンチを乗り越えた古い友のように思え、それらのワインは特別なときに開けるようにしていた。

ワインの香り

最近、新しいことに挑戦して頑張っていたので、特別なイベントではないがなんとなくご褒美としてそのボトルの中の1本を開けようと、一番古いボトルを手に取った。
コルクが腐ったりしてブショネになってはいないかとドキドキしながら抜栓したが、大丈夫そうだった。
飲み頃は恐らくとっくに過ぎていると思うのだが、それでもまだ香りには深みと華やかさがあって、私には十分アリだと思えた。

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ゴージャスなひととき

長いこと横にして保管していた為、下側になっていた部分にオリが溜まっていたので、その部分を上側にしながらそっと静かにワインをグラスに注いだ。
重厚感のあるこげ茶色のワインは年齢とその深みを感じさせ、ゴージャスな気分にしてくれた。
愛用しているデキャンティンググッズ
のお陰で、それなりに(素人としては)良い状態でワインを楽しめたと思う。

想いをめぐらせながら

いざ飲んでみると、最初と中間は味の重みを感じられるのだが、その後は急に早足で味わいが去っていってしまう感じだった。
一口飲む度に、「これ、もっと早く飲み頃の時に飲んでいれば物凄くインパクトの強いワインだったんだろうな・・・でもまぁ、イイよね。」と心の中でつぶやきながら、ゆっくりと時間をかけてその古い思い出のような1本を楽しんだ。

ワインと腎機能

以前はワインが好きでよく飲んでおり、外に飲みに出ると一晩でワインを一人2本ずつぐらいは平気で空けていたのだが、今は1本空けただけで次の日の朝までアルコールが身体に少し残ってしまう
年齢と腎機能の低下の現実をきちんと受け止めて、ワインとの新たな付き合い方を考えなくてはと思った。

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グラスのこだわり

ボルドー用の大きなグラスで古いワインを飲みながら、ぼんやりとグラスのことを考えた。
私はもともとガラスが大好きで、手作りのグラスや器などを買い集めていた。
あるグラスメーカーのグラス講習会に参加し、グラスによっていかにワインの味が違って感じられるかということを知ってからは、ワインを飲むときはグラスの使い分けにとてもこだわるようになり、自然とグラスの種類も増えていった。

お気に入りのグラスたち

収集したお気に入りのワイングラスが震災でほぼ全滅してしまい、主要なものだけを購入しなおしてからは、「今度は壊れないでね!」とグラスを物凄く慎重に扱うようになった。
高いグラスはすぐに壊れてしまうのに、安いグラスやガラス器はぶつかろうが落とされようが割れずにずっとたくましく活躍してくれている。
なんとも不思議で切ない話だ。

硝子工房

今度、以前から興味を持っている硝子工房体験をして自分でグラスを作ってみようと思う。
ワイングラスだと薄く作るのが難しそうなので、ビアグラスを作ってその地域の地ビールを楽しめたらいいなと考えている。
自分でクラフトビール造りに挑戦して自分のグラスで味わうのも面白い。
そうなると、グラス作りは来年の晩春か初夏が良いかもしれない。
待ち遠しくてワクワクする。

そのワインがくれたもの

古き友のようなその1本のワインは、私に素敵な時間と新しい楽しみをくれた。
そして、ワインとの新たな付き合い方の必要性も教えてくれた。
高価なワインではなかったけれど、私にとってはとても意味のある1本だったような気がする。