年に一度の里帰り ~後編~


感謝のご挨拶

ゴールデンウィークの後半の連休で、101歳のおばあちゃんに会いに里帰りをしました。
乗り換えを繰り返し長い移動を経てようやく実家に着き、元気そうなおばあちゃんの笑顔を見てまずは一安心し、お仏壇に手を合わせ、ご先祖様のお墓参りをし、自分の大切な人たちが元気でいてくれていることに改めて感謝しました。
お墓参りの後は、海岸沿いにある温泉旅館にみんなで泊まりに行きました。
午前中はとても良いお天気で、お寺の池のほとりでのどかな風景を楽しんでいたのですが、午後からは急に雨が降ったり晴れたりと何だかおかしなお天気になりました。

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温泉旅館にて

大好きな日本海を眺めながらのドライブを40分程し旅館に到着すると、窓から海が見える広いお部屋に案内されました。
お茶を飲んで一休みしてからすぐに大浴場に行き、ゆっくりとお湯につかりました。
ずっと入っていられるような心地良いぬるめのお湯で、おばあちゃんもご機嫌でした。
一度お部屋に戻り海を眺めていると、青空だったのが急に曇で暗くなり、凄い勢いでヒョウが降ってきました。
「えーっ、せっかくの日本海の景色がぁ・・・」と私も娘も残念に思っていると、空から稲光が走り、少し遅れて雷鳴が轟き「うわぁーっ!」と大声を出して驚きました。


無意識の解説

「海に落ちたのかなぁ?!」「ここにも落ちるかなぁ?!」ビクビクしながら話していると、また稲光が今度はさっきよりも近くに大きく見えて「ヒェェェェェッ!」と悲鳴をあげました。
「この旅館に雷が落ちたらどうしよう?!」と不安そうな顔で焦る娘の問いに、私は無意識のうちに「高い建物には普通、雷が落ちても電気を地面に流して被害を避ける為の避雷針という物が設置してあるから大丈夫なはずよ。」と口早に答えていて、自分の頭の中でその言葉を再認識することで「あ、そういえばそうだった、大丈夫なんだった・・・」とホッとしました。

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稲光と檜風呂

気持ちに余裕ができると、さっきまでとは打って変わって「灰色の空にジグザグに走る一本の太い黄色の稲光、これはまさに大自然のアートだよねぇ!贅沢な景色が見られてラッキーだね!」と盛り上がりました。
夕食まで時間があったので、今度は別のお風呂に入りに行ってみました。
中途半端な時間だったからか私たち以外には誰もおらず、貸し切り状態に妙にテンションが上がった私たちは、ヒャッハーな気分で円形や四角形の五種類の檜風呂を満喫しました。
私と娘は、樽型の檜風呂が特に気に入り、お漬物になった気分でしばらくお湯に浸かっていました。


夕陽のグラデーション

世間には『ワイン風呂』というお風呂にワインを入れて楽しむ入浴方法もあるらしいので、私は本物のワイン樽にお湯とワインを入れた『ワイン樽風呂』なんてものがあったら面白いだろうなぁと思いました。
私はワインを最後の一滴まで飲みきり、絶対にお風呂に入れたりはしないので「そんなお風呂があったら贅沢感が倍増しそうだなぁ」などと考えていると夕食の時間になりました。
お天気が落ち着き、やや曇ってはいましたが夕陽を見ることができました。
夕陽は、晴天よりも雲に光が映えた方が色のグラデーションが楽しめるので、より美しさが増していました。


アワビ三昧

私は、海に沈む夕陽を見て育ったので見慣れていましたが、久し振りに眺めるとやはり懐かしくて感慨深い気持ちになりました。
夕陽が彩る空と海の綺麗なグラデーションを楽しんだ後は、地元の食材をふんだんに使ったお料理に感激しました。
器の蓋を開けると、大きな肉厚のアワビが貝殻ごと入っていて、旅館の人がそこに地酒を注いで酒蒸しにしてくれ、ナイフとフォークで頂きました。
その他にお刺身にもアワビが使われており、どちらもとてもやわらかくて、おばあちゃんと娘がお腹いっぱいで食べきれなかった分も私が頂き、約3個分のアワビを食べてとても幸せでした。

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お風呂三昧

夜はまた違う浴場で露天風呂に入ったのですが、海風が冷たすぎて寒く、お湯がぬるめなので身体が震えて歯のガチガチが止まらず、早々に出て屋内の岩風呂でじっくりと温まってから寝ました。
次の日は朝から快晴で、朝食後に檜風呂に浸かり、お風呂上りは海を一望するカフェコーナーで紅茶を頂きました。
毎年、この温泉で宿泊した後に寄っている絶景が楽しめる島があるのですが、風が強くて危なそうだったので行くのをやめてお寺に行きました。
私の故郷には即身仏を祀ってあるお寺があり、私と娘は里帰りの際は必ずそこに行き二体の即身仏にご挨拶をします。


即身仏

この土地や人々を見守り続ける為に自ら決意した僧侶が、即身仏になる為の特別な修行を重ねた後に土の中の空洞に入り、鈴を鳴らしながらお経を唱え続け、鈴の音が止み、息が絶えたとされてから三年後に掘り出され、即身仏として祀られているのだそうです。
エジプトのミイラは、死体になってから腐らないよう手が施されますが、即身仏の場合は死んでも腐らない身体を自ら作る為に木の実などの決まったものだけを食べ、その後は断食をします。
人の為に自分の命を差し出す献身的な精神と、厳しい修業を全うし成し遂げるその覚悟と意志の強さに深く敬意を払い、里帰りの際はご挨拶に行くことにしています。


元気な二人

そのお寺の名前には『海』という字が使われており、またそのお寺の住職を務め即身仏になった二人の僧侶の名前にも『海』と言う字が使われています。
私は海が大好きで娘の名前にも『海』という字を使って名付けたので、そのお寺には何だか親近感を感じています。
お寺から戻ると、おばあちゃんと娘は仲良くお散歩に出掛けました。
おばあちゃんは昔から足腰が強く握力も強いので、手をつないでいると手を握り潰されそうになります。
眼下には、遠くには青い山々を望む眺めの良い道を歩き「お花が綺麗だった!」と二人ではしゃぐ姿を見て、元気で何よりだなぁと思いました。


食べられる幸せ

夜は地元のお寿司屋さんに行き、おばあちゃんも娘もお散歩でお腹が空いたようで、よく食べていました。
人間は、年齢と共にあまり食が進まなくなると、どんどん体力が落ちて弱り動けなくなってしまうと聞いたことがありますが、おばあちゃんが101歳にして元気でいられるのは、好き嫌いせずに出されたものは何でもモリモリと食べるからなんだなぁと納得しました。
海側の地域なので、もともとお肉よりもお魚を食べる率が高く、おばあちゃんの時代の人は特に野菜中心の粗食が多かったこともあって、いまだに内臓が丈夫なんだろうなと思いました。


懐かしの動物園

次の日はおばあちゃんに「また来るからね!」と告げ、昼頃のバスに乗りました。
渋滞やら悪天候でバスの到着が遅れても飛行機に乗れるように、いつも飛行機は遅い便をとっており、順調にバスが到着して時間があったので、娘の希望で動物園に行きました。
娘が小さい頃、よく行っていた動物園なので、懐かしく思いながら園内を見て回りました。
夕方になり涼しくなったからか、動物たちは活発に動き回っていて、特にシロクマたちがプールに飛び込んではザッブンザッブン激しく水しぶきをあげて遊んでいて、とても見応えがありました。


空港でのひととき

空港のレストランで夕食をとり、娘は地元のチーズを使ったピザを、私は牛タンとビールを頂きました。
食後はエアポートミュージアムに行き、娘はパイロット席での写真撮影や、飛行機の操縦体験ゲームをしました。
けっこう本格的な体験ゲームで、40代後半ぐらいの男性がかなり真剣に取り組んでいました。
ゲームの途中でも10分程たったら自動的に終了するシステムだったので、娘はとりあえず挑戦したのですが、目的地に近づいているのかどうかもわからないまま20分近くたっても終了の気配がなかったので、私が強制終了ボタンを押しました。


旅の終わり

「体験ゲームがずっと終わらなくて、どうなることかと焦ったよねー!」と二人で胸を撫で下ろして笑い、その地域の名物『ずんだシェイク』を味わい「里帰りって移動が大変だけど、美味しいものや楽しいことがいっぱいだよね!」と、数日間の旅に満足して帰路につきました。
夜遅くに帰宅すると、お留守番をさせられたウチの老猫ちゃんが、寝起きかつご立腹のご様子「うんにゃー!(怒)」力強く鳴いて出迎えて下さったので、私たちはひたすら謝り撫でさせて頂きました。
今年も無事に里帰りができ、家族の思い出を作れて良かったなぁと思いながらベッドに入ると、疲れと安堵感が押し寄せ一瞬で眠りに落ちました。

来年もいろんな意味で、無事に里帰りができたらいいなぁと思います。