感慨深い秋の日


特別な学校行事

先日、娘の中学校行事に行きました。
この地域には、音の反響に優れた素敵な音楽ホールがあり、私と娘はこちらに移住した頃から音楽鑑賞の為に何度も訪れていて親しみがありました。
娘が通う中学校は『合唱の会』という学校行事を毎年その音楽ホールで開催していると聞いて以来、私も娘もその日をとても楽しみにしていました。
本格的な音楽ホールで行われる行事だけあって保護者にも大人気な為、来場できるのは生徒の親族のみで、生徒一名につき保護者一名までは確実に入場でき、他の家族分の入場チケットは事前に中学校に申し込みをして人数調整された上で配布というスタイルで入場制限がされていました。
娘がステージに立つのは第一部だったので午前中だけ仕事を休んでも良かったのですが、初めて観賞する『合唱の会』でしたし、その音楽ホールは来年から補修工事に入る予定の為、もしかすると来年は違う会場になるかもしれないと思い、「せっかくの機会だから最初から最後までしっかりと観賞しよう!」と決め、その日はお休みをとりました。


客観的な視点

以前は仕事がとにかく忙しく、子供の行事の為にお休みをとることなどなかなかできない状態でしたが、今年の6月から転職をして別の職場で働いているので、幸いなことに難なくお休みをいただけました
今の職場は以前の職場と同じビルの上層階にあり、たまに以前の職場の人たちと顔を合わせるのですが、外部の人間として以前の職場の様子を考えると「みんないつも忙しく仕事をしていて疲れた様子だったなぁ・・・」と思います。
私は『オフィスワークの実務修行』として、いろんな業務を経験し実力を身につけたくて以前の職場を選んだので、どんなに大量の仕事を任されて忙しくてもさほど苦にならず、仕事のコツをつかみ合理的な段取りでどんどん素早く仕事をこなせるようになって自分の成長を実感することに歓びを感じていました。
ですが、外部の人間として客観的に当時の自分の労働状況を振り返ると「あんなにも多くの業務を、毎日よくこなしてきたものだなぁ・・・」としみじみ思い、自分を心から褒めてあげたい気持ちになりました。


新たな『仕事の勲章』

以前の職場で私が一人で担っていた仕事を、現在二人の人員で担当しても大変な状態らしく「一体、前任者は二人掛かりでも忙しい程の仕事を、どうやってこなしていたんだろう?」という声や「いろんな所で前任者の良い評判を聞く」という話を耳にし、前任者である私は照れくさく感じながらも「堅実な努力による功績は必ず人々に認められるものなんだ!」と嬉しくなりました。
真面目に頑張ったことで、また新たな『仕事の勲章』を手に入れることができた達成感に満たされ、充実した『実務修行』をさせてもらえた御縁をありがたく思いました。
世の中には、実力で勝負するのではなく他人の評判を落として足を引っ張ったり、立場が上の人に取り入って目障りな存在を排除したりと卑怯な手段でのし上がる人もいますが、周りからは軽蔑され、格好ばかりで中身が低レベルのままでは、出世したところで意味がない気がします。
やはり本当の実力誠実さ地道な努力によって得られるものなので、私はこれからも自分の信念を忘れずに仕事をしていこうと思いました。


保護者用の入場チケット

『合唱の会』には生徒はお弁当持参で、音楽ホールの売店は休業なので保護者も必要に応じてお弁当持参とのことで、私はいつもより早く起きて娘にはお弁当を、自分にはおにぎりを作りました。
保護者の入場開始時間より早く着くように音楽ホールに行ったのですが、もう既にエントランスには長い列ができていました。
「やっぱりどこの親もなるべく良いお席で我が子の姿を見たいから、早い時間から一生懸命だなぁ・・・」と思いながら列に並び、ふと他の保護者が手にしているプログラム見た私は「???」となり「!!!!!」となりました。
『合唱の会』の数日前に、中学校から生徒用のプログラム保護者用のチケットとなるプログラム色違いで発行されており、娘は二色のプログラムを持って帰ってきました。
そして「えーっと、確かグリーンが生徒用で保護者用はブルーだったような気がする・・・」とボソボソ言いながら私にブルーのプログラムを渡し「本当にそれで色は合ってるの?」と私が確認すると「うん、それで大丈夫!」と答え、当日は自信満々にグリーンのプログラムを持って出掛けたのでした。


悲しきブルーのプログラム

「まさかとは思ったけど、やっぱり違ってるじゃない・・・保護者用のプログラムはグリーンじゃない・・・」と私はガックリ肩を落とし、「あら、あの方ったら生徒用のプログラムを持ってきてるんじゃないの?!クスッ。」という感じで他のお母さんたちからチラチラ見られながら、切ない気持ちでブルーのプログラムを手に入場開始時間を待ちました。
開場され受付に進むとチケット係の人に「それは保護者用のチケットではないようですが・・・」と不審な顔で言われ、「えぇ、ウチの娘がグリーンのプログラムを持って行ってしまって・・・(;´Д`)」と悲し気な顔で答えると、チケット係の人は「あっ、そうでしたか・・・」と気の毒そうな表情で私を中に通してくれました。
そんなことがあり、私は入場の時点ですっかり疲れてしまいましたが、気を取り直して二階のバルコニー席を確保し、娘のクラスが座る一階のエリアを眺めました。
小さく見える大勢の生徒の中から娘を見つけ出して大きく手を振りましたが、娘はなかなか気づかず、私が根気強く手を振り続けていると娘もようやく気づいて手を振り返しました。



無言のやりとり

娘と笑顔で手を振り合い、娘の隣に座っているお友達とも会釈を交わして挨拶を終えると、私は座ったままおもむろにブルーのプログラムを片手で高々と掲げ、ヒラヒラと揺らしながら娘の顔をみつめました。
すると、娘はすぐに自分がプログラムを渡し間違えたことを察し「マズイ!」という表情で、遠目にみてもわかるくらい目を泳がせて動揺し始めました。
私が娘の顔をガン見しながら無言のまま
「やってくれたなぁ・・・よくも、まんまとやってくれたなぁ・・・(怒)」鬼の形相で訴えかけると、娘は顔の前で両手を合わせ何度も頭を下げていました。
その必死に謝る様子がおかしくて、私は笑いそうになるのをこらえながら、無言のまま「よし、ならば許そう(=_=)」と目を細めて静かにうなずきました。
二階の席から見ていると、何人かの生徒が保護者用のグリーンのプログラムを手にしているのが見えました。
「あぁ、私の他にもブルーのプログラムを子供から渡され、恥ずかしさに耐えている保護者がいるのね・・・お気の毒に(*_*;)」と思い、「日頃の苦労とお気持ち、お察しいたします・・・」と心の中でつぶやきました。


『合唱の会』

いよいよ『合唱の会』がスタートし、最初に一年生全員で学年テーマ曲の合唱が行われました。
小学校よりも一学年の人数が多くなった分、大ホールに響く歌声は聞き応えがありました。
クラス別の合唱は特別支援学級から始まりました。
一番目にステージに立って大勢の生徒や保護者の前で発表するのはかなりの緊張だったと思いますが、20人以下の生徒数にもかかわらずしっかりと口を大きく開けて最後まで一生懸命に歌う姿に、私も含め多くの保護者が心を動かされ涙を浮かべながら賞賛の拍手を送りました。
ステージ上の定位置から動き出してしまいそうな生徒を、隣に立っている生徒が腕をとって引き留め最後まで合唱を成し遂げるチームワークと、クラスの一員としての個々の役割分担を理解している姿に「中学生になると自分たちの中で助け合いを学び、たくましく成長していくものなんだなぁ・・・」感心しました。
その後、一年生の各クラスの合唱へと続き歌唱曲の選択歌い方もクラスごとに特徴があっておもしろいなぁと思いました。


それぞれの情熱

娘は歌が大好きで、今回の『合唱の会』の練習ではソプラノのパートリーダーに立候補し「綺麗なソプラノの声を大きく響かせることを目標に頑張るんだ!」と張り切って、朝練の呼び掛けをクラスの皆にするなど積極的に取り組んでいました。
娘のクラスの歌唱曲はスタンダードな構成希望に満ちた内容の曲で、透き通る声のハーモニーが美しい、ふんわりとした穏やかな合唱でした。
中学生の男の子は「合唱なんて恥ずかしい」という感じかと思いきや、どのクラスの男子もきちんと歌っていて驚きました。
学年が上がるにつれ合唱に対する取り組み方にが入っており、三年生全員による学年テーマ曲の合唱アカペラで行われ、大ホールに大波のような迫力のある歌声が溢れるダイナミックな合唱で、アンコールが起きそうなくらい拍手喝采でした。
三年生は各クラスのテーマ曲も、哀愁を感じさせる曲リズムとテンポの変化が多い曲深い主張性を感じる曲など、歌声だけではなく表現のテクニックも重視した本格的な合唱で、すべてのクラスの歌声にただただ聴き入りました。


努力の成果

各学年で金賞、銀賞、銅賞が与えられ、娘のクラス銅賞を受賞しました。
ハーモニーの美しさはなかなかだったと思うのですが、残念ながらホールの大きさに声のボリュームが負けていたような気がしました。
一年生の銀賞は元気な歌声が響く力強い合唱をしたクラス、金賞は顔も声も表情豊かに歌っている生徒が多いクラスでした。
三年生は、どのクラスもそれぞれの強い想いをのせた熱い合唱だった為、審査員の先生方も選考が難しかったようでしたが、銅賞はアルトとテノールが特に印象的だったクラス、銀賞は抑揚のある難しい曲を歌いこなしたクラス、金賞はバランスの良いハーモニーで全体的な構成に力を入れたクラスが受賞していました。
トップバッターとして、少人数でも堂々と最後まで歌い切った特別支援学級には特別賞が贈られ、会場が割れんばかりの盛大な拍手に包まれながら『合唱の会』は無事に幕を閉じました。
娘の頑張りが報われた結果を嬉しく思うと共に、生徒たちの団結による『想いがこめられた合唱』を、この機会にこの場所で鑑賞することができた自分はとてもラッキーだと思い、現在の境遇感謝しました。
鮮やかな紅葉の秋にピッタリの、芸術的で感慨深い学校行事でした。