エコビレッジのワイン葡萄
私は2016年11月からエコビレッジという大自然の中にある施設でワイン葡萄の栽培体験に参加させてもらっている。
私の場合は時期的に収穫のタイミングには間に合わず、剪定作業からのスタートとなったのだが、2016年の秋に収穫されたワイン葡萄はツヴァイゲルト・レーべという赤の1品種のみで約200キロだったそうだ。
近くのワイナリーのオーナーに指導を受けながら、いろんな人が少しずつ作業に関わって作るという、とても珍しいスタイルで作られた葡萄だ。
雑草vs人間
葡萄棚の周りにどんどん生えてくる雑草に、養分を取られてしまわないように草むしりをしっかりしなくてはいけないのだが、雑草の生命力が強いので「この前、草むしりしたばかりなのに。」という感じで、雑草と人間との気合の競争となる。
農作業が行われるシーズンは、海外や国内からエコビレッジへの訪問者や滞在者が多くなるので、いろんな人が草むしりを手掛けたそうだ。
除草剤を使うという方法もあるのだが、そこはエコを重視するエコビレッジなだけに、薬に頼らない栽培を目指したいという想いが強いのだろう。
意外なストレス解消法
単独で集中して黙々と草むしりに没頭したり、友達同士でお喋りをしながら草むしりをしたりと、ボランティアで作業をする人も多く、意外と草むしりは人気だったりするらしい。
自分の手で土をいじり、自然の匂いや感触を楽しみながらひたすら単純作業を行うことによって、日常の感覚から解放され自動的にストレスの解消にも繋がるようだ。
害虫vs子供
夏になり、葡萄の実がそれなりの形になってくると虫が寄ってくるので、今度はその虫を除去する作業が必要となる。
割り箸などを使って紙コップに、葉っぱに着いた1センチ位のコガネムシを探して取り除いていくという地道な作業だ。
夏は子供の団体がバス旅行などで訪問するので、子供たちに虫をとる作業の体験をしてもらうのだが「子供×虫=ワクワク」という方程式の元、単純な虫の除去作業があっという間に虫集め大会という楽しいゲームに早変わりするのだから、子供と自然のコラボは面白い。
こだわりの手法
そんな風に大人も子供も日本人も外国人も、いろんな人が少しずつ関わって栽培された葡萄は2016年の10月に無事に収穫され、ワイナリーで醸造された。
ワイナリーのオーナーの熱い想いとこだわりから、タンクの中で発酵させた葡萄酒に、同じ葡萄から作ったジュースを加えて自然発砲させるという昔ながらのクラシカルかつ繊細な手法で、エコビレッジの葡萄たちはスパークリングワインへと華麗な変身を遂げた。
若き女王のような輝き
375mlの緑色のボトルに詰められ王冠キャップで密封されたそのスパークリングワインは、抜栓するそのときまでボトルの中で自然発酵が続く、とても丁寧に作られた「生きたワイン」だった。
フルートグラスに注がれると、赤葡萄の色でほどよく彩られたロゼカラーがとても上品に輝き「戴冠したばかりの若き女王」という表現が似合いそうな「誇り高き初々しさ」を感じさせた。
テイスティング
グラスを持っただけで酵母と果実の香りが感じられるインパクトの強さと、次々と上がってくる泡の美しさが印象的だった。
飲んでみると、果実味の強さとほどよい酸味が絶妙なバランスでマッチした「ウキウキと嬉しくなるような美味しさ」だった。
自分が気に入って飲んでいる銘柄のシャンパンを「優雅なゴージャスさ」と表現するなら、このスパークリングワインは「フレッシュな強さ」かななどと思った。
乙な濁り酒
ボトルの底の方にはオリが沈んでいて、せっかくなのでそれを頂いてみた。
グラスに注ぐと綺麗なロゼの濁り酒のような状態で、とろりとしていた。
飲んでみると酸味があまり感じられず、滑らかでほんの少し甘い気がした。
一般的に販売されているシャンパンやスパークリングワインは、製造過程でオリは取り除かれるので、普通はここまで底の部分にオリが溜まることはない。
スパークリングワインのオリを飲んだのは初めての経験で、これはこれで珍しくてなかなか乙だなと思いながら味わった。
飲み頃はバレンタイン
このスパークリングワインは完全に発酵しきっていない状態らしく、まだ泡が弱めで、2月中旬ぐらいがちょうど良い飲み頃の時期になるのだそうだ。
バレンタインが飲み頃のロゼのスパークリングワインだなんて、なんて素敵なタイミングだろう。
まだ発酵しきっていない分、果汁の糖分が感じられ、優しい泡だから果実味を強めに感じられるのかもしれない。
飲み比べてみないと違いを知ることはできないが、私は発酵途中の今の状態もとても気に入っている。
600年前の手法基準
このスパークリングワインはワイナリーのオーナーのこだわりの元、600年前のイタリアのワイン醸造の手法をベースに作られた。
現在のワイン葡萄栽培やワイン醸造で当たり前に使われている科学的で便利なもの(農薬、化学肥料、電気の力など)を使わずに、人の力だけで「原始的な方法」で醸造するという手法だ。
「原始的」と聞くとシンプルで簡単というイメージを持ちそうだが、実はその方法でワインを作る為には良い状態の葡萄が必要となり、葡萄栽培のいろんな点で細心の注意を払わなくてはならないので、ある意味自然との戦いなのだ。
ストイックな評価
スパークリングワインを醸造したワイナリーのオーナー本人の評価によると、今回のスパークリングワインの点数は80点で、理由は以下の2つだった。
①葡萄にカビが少しつき始め、全部の葡萄がダメになってしまう恐れがあった為、葡萄の収穫時期を早くし葡萄を完熟させないでしまい、リスクを考え自然発酵ではなく乾燥酵母を使用したことでマイナス10点
②雑菌やカビの菌のせいで葡萄が発酵の段階でダメになってしまう恐れがあった為、亜硫酸を使用したのでマイナス10点
違った視点と評価
地元の手に入りにくいワインもほとんど全て扱っている有名な酒店の名物オーナーが試飲をした評価は、80点ではなく90点で、理由は以下の2つだった。
①葡萄が完熟する前に収穫となったのは確かに残念なことなので、自然発酵を選択できずマイナス10点という醸造家の意見を尊重。
②「亜硫酸を使う=良くないこと」とは限らず、葡萄本来の味を生かした良いワインを作る為にこそ必要になることもある。
逆に必要なときに亜硫酸を使用しなかった為、その葡萄の味を生かすことができず残念な出来のワインになってしまうこともある。
今回のスパークリングワインの出来からすると、危うい状態の葡萄からここまでに仕上げる為にはやはり亜硫酸は必要だったと考えられるので、亜硫酸を使用したからという理由のマイナス10点は無効。
そして自分の考えとしては、葡萄を作った人とワインを醸造した人の気持ちがこもった素晴らしいワインに点数をつける必要はなく、ただその喜びを分かち合いたいとのことだった。
来年の課題
酒店のオーナーの話にワイナリーのオーナーも深く頷き、一応「600年前の手法で醸造する」という観点での評価は80点だが、ワインそのものの評価としては90点ということで落ち着いた。
評価の仕方も観点次第でいろいろな理由や結果があり、その観点は立場によっても異なり、また評価の必要性の捉え方もそれぞれなのだと勉強になった。
来年はどちらの観点でも100点満点のワインが作れるように、葡萄栽培の段階でより一層の注意を払い手間をかけ、完熟した状態で葡萄を収穫するという明確な課題ができた。
試飲会から宴会へ
課題も明確になり、おそらく全員の予想を大きく上回る美味しさのスパークリングワインができたという喜びで皆テンションが上がり、試飲会が始まる前に絞りたての生乳を使用して作ったチーズや、飲食店をしていた経験のあるエコビレッジのスタッフの方の本格的な料理と共に、記念すべきエコビレッジのオリジナルワインの誕生を祝って宴会が始まった。
いずれワインのラベルが仕上がり、更に本格的なオリジナルワインとして変身するとのことで、どんな風にこの可愛らしいボトルがドレスアップされるのかとても楽しみだ。
チーズ作りや料理、その宴会の楽しい様子のお話は、また「Vol.2」にて。
エコビレッジ情報
http://ecovillage.greenwebs.net
Vol.2へ続く