新型コロナウィルスと冬季大会の中止


冬季大会招致への想い

私は昨年の6月に転職し、障がいのある方々が社会との繋がりを持ちながら健康的な生活を送れるようにスポーツ活動を推進し、大小様々な大会を開催して発表の場を作るという公益性の高い事業を世界的に展開している組織の大会事務局で仕事をしています。
今回の大会は4年に一度の国内冬季大会で、来年度に開催される世界冬季大会の予選も兼ねている大規模な大会でした。
大会開催地は、知的障がい者の為のスポーツ活動を促進している各都道府県の組織の中で大会招致を希望する組織がプレゼンをして選ばれます。
今回の大会開催地となったこの地域の組織は、前回の冬季大会開催地選考の際にも大会招致に手を挙げたのですが残念ながら選ばれず、「今度こそは!」という意気込みでプレゼンをした結果選ばれたそうなので、きっと皆さん今回の冬季大会開催に対する想いが強かったことと思います。

全力の大会準備

冬季大会PRの為のパレードや神聖な火をいただく採火式、分火した火を点火したトーチを手にアスリートが走るトーチランなどのプレイベントが多く開催され、秋には約80名を率いての競技会場の現地説明会を実施するなど、冬季大会の1年前ぐらいから様々な準備が行われてきました。
全国から約1000人の選手団が集う大会なので、競技会場や宿泊先の確保、食事の手配、現地で移動する際のシャトルバスの用意、競技役員やボランティアスタッフに対する説明会など大規模な準備から、大会に必要なグッズや備品の手配と管理などの細かい準備作業もあり、大会開催日が近づくにつれ大会関係者はそれぞれの担当業務に慌ただしく追われていました。
私は冬季大会事務局での経理業務の他に、選手団が使用する荷物の送付状や名札の作成と発送、開閉会式のチケットの発送などを担当し、少しでも早く皆さんのお手元に届けられるよう早出残業をして作業を進めました。


担当業務への意欲

大会開催が1週間後に近づくと夜10時まで残業になることもありましたが、「今まで準備を重ねてきた冬季大会がいよいよ開催されて、参加するアスリートやコーチ、家族の皆さんの笑顔が見られるんだ!」と思うと力が湧いてきて、溜まり続ける疲れも苦にせず集中して頑張ることができました。
異例の暖冬で雪が少なく競技会場のコンディションが心配されても「きっと大丈夫!良い大会になるはず!」根拠のないポジティブな思考邁進してきました。
冬季大会の会場は式典会場と競技会場を合わせ5会場あり、大会スタッフはそれぞれの持ち場に配属されます。
私は式典会場へ配属され、担当する役割は開会式・閉会式会場での物販ブース管理と経理業務、総合案内の事務的な業務、来賓をお招きしてホテルで開催されるレセプションパーティーの受付業務などで、その打ち合せや準備に張り切っていました。

新型コロナウィルスの猛威

その頃、新型コロナウィルスの感染拡大という不穏なニュースが日々報道されおり、私は大会開催日が近づくにつれアスリートやコーチ、ご家族の皆さんのことがとても心配になりました。
人から人へ感染するウィルスということは、様々な地域から多くの人が集まる場所は感染のリスクが高くて危険と考えられるので、大会に参加する為に飛行機に乗降する際の空港も感染リスクが高いですし、選手団と大会関係者、ゲスト出演者と観客を合わせ1000人を優に超える人間が集まる大会開会式絶対に安全な場所とは言い切れないので、私は大会の開催準備を続けながらも不安を感じていました。
そんな週明けの月曜日、緊急会議新型コロナウィルスの感染が拡大している状況で大会を開催すべきかが検討され、大会参加者や関係者、観客の方々の安全を一番に考えた結果、今回の冬季大会は中止と決定されました。


『大会中止』という英断

大会中止の発表は、各会場で競技の打合せや会場整備に励んでいた大会関係者や、必死に業務を続けていたスタッフ、参加を楽しみにしていた選手団や観覧予定だった方々にとって突然のショックな一報となったと思います。
「冬季大会が中止になる可能性もないとは言えない状況だよなぁ・・・」とうっすら予想をしていた私でも、実際に『冬季大会は中止となりました』という言葉を正式に耳にしたときは、緊張の糸が切れてガクリと力が抜けました。
ですが私は、大会を成功させる為にしてきた今までの努力や、念願の冬季大会開催に対する強い想いよりも、まずは人々の安全を最優先にして考慮し断腸の思い冬季大会中止の決断に踏み切った大会実行委員会の方々の決定は勇気ある英断だと思い、尊敬の念を抱きました。
冬季大会の中止が決定されたのは大会開催予定日の数日前だったので、私たちは悲しみ嘆く暇もなく、早急に大会中止の旨を関係者の方々に発信する作業に取り掛かりました。

新たな激務

「大会の中止を知らずに会場に来てガッカリする人がいないように一刻も早くお知らせしなくては!」と、大会スタッフで手分けして電話メールで連絡をする段取りを組み、留守電になり直接伝えられない方には念の為に書面の郵送もしました。
大会開催予定日が近かったので飛行機やホテルなどのお手配を既に済ませていた方が多かったと思うのですが、私たちの声が悲しげで申し訳なさそうだったからか、大会中止を聞いた方々からは苦情ではなく「大変だと思いますが、頑張って下さい。応援してます!」という温かい励ましのお言葉をいただき気持ちが救われました。
『新型コロナウィルスの感染拡大による大会中止』ということで大会事務局にメディア取材がいくつも入り、中止に関するお問い合わせの電話が続き、大会中止に伴うキャンセル手続きに追われるという、今までとは違う激務に突入しました。

貴重な経験

初めて関わる福祉事業の大きなイベント運営ということと、新たに挑戦する経理業務などに魅かれて私は冬季大会事務局で働くことを決め、無事に大会を成功させるという目標に向かって仕事をしてきたので、冬季大会が中止となってしまった現在の状況はとても残念ではありますが、こういった状況から学ぶことや、こういった状況でしか見えてこないこともあるので、気持ちを切り替えて新型コロナウィルスの感染拡大による不運な展開貴重な経験と捉えることにしました。
現地の冬季大会事務局は期間限定の事務局なので残すところあと数か月の勤務となりますが、せっかくご縁があって携わることができた福祉事業なので、なるべく多くのことを習得し自分の中に知識として残せるように最後までしっかりと業務に取り組みたいと思います。

鋭い意見

私は将来、自分で福祉事業を展開したいと考えています。
私の知人は「ボランティア活動や人助けは、まず自分が儲けてからじゃないとできないこと。お金と時間に余裕がなければ世の中の為に役立つことをするなんて難しい話。」という意見で、以前の私は「そんなことない!」と思っていましたが、今は「その通りかも・・・」と思います。
事実、平日フル勤務で働き家事を全て一人でこなしながら子供を育てている今の私は、仕事子供のケア睡眠であっという間に過ぎるバタバタな毎日で時間に余裕がなく、誰かにボランティア活動をお願いされてもお受けするのは難しいような気がします。
子供を育てる為にはお金が必要ですから、就労時間を減らしてボランティア活動の為に時間を作るというのも考えづらく、結局のところお金と時間に余裕がない今の私には気持ちがあっても残念ながら大々的なボランティア活動をすることが無理な現状です。


『ボランティア精神』の定義

ただ私は、必ずしも『福祉=ボランティア活動』とは限らないとも思っています。
また、普段の生活の中にあるちょっとした親切な行動や思いやりも一種のボランティア精神と言えると思いますし、無償ではない就労の中でも相手や周りのことを考えた丁寧な仕事ボランティア精神に基づくものだと思っているので、胸を張れるような立派なボランティア活動をするのは無理でも、ボランティア精神を発揮して誰かのお役に立つことは可能だと思っています。
他人の反応を気にするあまり本心を隠して流されてばかりでは、自分が優先すべきことを見失い心が死んでしまうので、私は自分ができることとできないことをきちんと見極めてハッキリと言える人間でいたいです。
きっと今はまだ、自分にできる範囲『親切な行動』『誰かの役に立つこと』を日々積み重ね、自分が将来展開しようとする福祉事業の基盤を模索する為の時期なのだと思います。
子供の思春期受験対策など子育ての課題も抱えている現段階の私には、母親としても社会で働く人間としても更なる成長が必要で、起業に至るまでの修行の日々はまだまだ続きそうです。

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