『オーストラリアの動物たちと』 Vol.4


有効な滞在計画

人生初の海外旅行にオーストラリアを選び、2か月半程の滞在を終えて帰国した私は、オーストラリアの大自然と動物たちにすっかり魅せられ、再びオーストラリアに行く計画を練り、1年間の滞在と労働が可能『ワーキングホリデイビザ』というものを取得しました。
せっかく最長1年間の滞在ができるのだから、その期間を有効に使って意義のあるものにしたいと思い、動物好きな私はオーストラリアの動物園などでボランティアとして飼育員さんのお手伝いに挑戦しようと考えました。
早速、オーストラリアの動物園などの施設30か所程に「ボランティアとして飼育員さんのお手伝いをさせて下さい!」という内容のお手紙を書き国際郵便で送ったところ、私には動物に関する専門的なバックグラウンドも専門知識もないという理由でお断りの返信が続々と届きました。

ボランティアのチャンス

そんな中、南オーストラリアにある動物保護施設から「交通費や滞在費などの支援はありませんが、それでも良ければボランティアとして受け入れ可能です。」というお返事があり、運良く私はその施設で飼育員さんのお手伝いをさせてもらえることになりました。
その施設でボランティアをさせてもらう前に、オーストラリアでの生活と英語の環境に慣れてウォーミングアップをしておこうと、シドニーメルボルンホームステイをしました。
いよいよお世話になる施設に到着し、受付で担当者を呼んでもらうと施設の責任者がやってきました。
私の受け入れを許可してくれた担当者は、急な事情で少し前にその動物園を退職してしまっていて、誰も私の受け入れの件を引き継いでいない状態でしたが、私は担当者からのEメールをプリントアウトして持参していたので、予定通りお手伝いができることになりました。


『残念な事』と『ラッキーな事』

私にチャンスをくれた担当者に会えないのは残念でしたが、後任の受け入れ担当がまだ決まっていないということで、各セクションが交代で私を受け入れることになり、私は複数のセクションでお手伝いができることになりました。
一つ違えば、担当者不在で受け入れ不可能ということにもなりかねない状況でしたが、受け入れの約束のもとはるばる日本から来たということを考慮し善処してもらえ、結果的に私にとってはラッキーな展開となりました。
そこの施設は、ほぼオーストラリアの動物だけがいる動物園で、事故などで怪我をした動物の保護をする役目も果たしていました。
オーストラリアの動物といえばコアラとカンガルーが有名ですが、とても珍しく希少な存在で、自然の中ではなかなか見ることができないカモノハシがその施設のトレードマークになっていました。

お手伝いスタート

初日は、その施設で一番人気のカモノハシのセクションでお手伝いをすることになりました。
外国の人から見ると日本人は幼く見えるので、私はそのころ20代後半でしたが、オーストラリアではよく中学生ぐらいに思われており、バスに乗っても運転手さんに「学生は半額料金だから、YOUは払いすぎだよ!」と何度も言われていました。
飼育員の人たちも「日本から来た中学生ぐらいの女の子に、まともな手伝いなんかできるのか?!」という感じで見ているようでした。
飼育員さんに「じゃあ、まずはカモノハシの水槽を掃除してもらうよ。」デッキブラシとスポンジを渡され、私は「えぇーっ!この展示用水槽に入っていいんですかぁー!!」と喜びながら、清掃の為にカモノハシを既にバックヤードに移動させて水抜きをした状態の水槽エリアに足を踏み入れました。


展示用の水槽

カモノハシは2匹しか展示されていないのですが、施設で一番の人気者だけあり水槽が広々としていて、大きな岩風呂を思わせるような造りになっていました。
普通ならお客さんとして外側から眺めるであろうカモノハシの展示用水槽から眺める観覧側の風景は何だか不思議でワクワクしました。
「じゃあ、頼んだよ。」と飼育員さんに言われて水槽エリアに一人残されると、私は弾む気持ちを抑えきれずに鼻歌を歌いながら掃除を始めました。
ヌルヌルした岩をデッキブラシでゴシゴシと擦って洗い、汚れで曇ったガラスはスポンジで念入りに磨き、オーストラリア滞在の為に新調したばかりのスケッチャーズの真っ白な厚底スニーカーが汚れるのも構わず、ハイテンションで水槽をピカピカにしました。
掃除を終えると、飼育員さんに声を掛けて仕上がりのチェックをしてもらいました。

特別なご褒美

動物に関することを学ぶ学校の必修科目としてボランティアワークをしに来る学生にとって水槽の掃除は面倒で嫌な汚れ仕事なので、ほとんどの学生がササッと適当に終わらせるのに対して、初めて経験する水槽掃除が楽しくて仕方ない私が、ノリノリで隅々まで磨き上げた仕上がりはだいぶ違ったようで「本当に君がここまでキレイにしてくれたのか?!」と驚かれました。
飼育員さんは、自分が大事にお世話をしているカモノハシの為に頑張って水槽をキレイにした私を気に入ってくれ、通常は施設の関係者でもなかなか立ち入れないバックヤードに案内してくれました。
そこには、掃除の為に一時的に移動させられた大人のカモノハシ2匹と、まだ一般公開されていない赤ちゃんカモノハシ1匹がいて、赤ちゃんカモノハシは直径1メートル程の円形のプールで泳いでいました。


赤ちゃんカモノハシ

「プールに手を入れてごらん」と言われて手を入れてみると、プールに浮かんだまま飼育員さんに両手で押さえられた赤ちゃんカモノハシが私の手をくちばしで甘噛みスキンシップをしてきました。
カモノハシのくちばしは、見た目が鴨のくちばしのようで固いと思われがちですが、実際はお菓子作りに使う『ゴムべら』のようで、独特なおもしろい感触でした。
赤ちゃんカモノハシはオスで、後ろ足のかかと部分を持っているので、飼育員さんがカモノハシのしっぽを持って逆さづりにした状態で写真を撮らせてくれました。
カモノハシの体に触ることはできませんでしたが、ふっこりしたゴージャスな毛並モソモソ動く様子がとても可愛いくて興味深く、カモノハシをこんな風に見せてもらえるなんて、私は本当にラッキーだなぁと思いました。

お気に入りの『ポッサム』

次の日は夜の動物館のお手伝いをしました。
館内は照明が暗く、フクロモモンガやポッサム、跳びネズミなど、様々な夜行性の小さな動物たちが活発に活動していました。
私はバックヤードで動物たちのご飯となるリンゴやマンゴー、キュウリなど、フルーツや野菜を1センチ大の賽の目切りにするお手伝いをし、動物たちの食器洗いバックヤードの清掃をしました。
小さな両手で食べ物を持って一生懸命に食べては、せっせと忙しく動き回っている姿が愛らしかったです。
オーストラリアの動物の中で私の一番のお気に入りはポッサムです。
インターネットで『ポッサム』と検索すると、アメリカやカナダなどに生息するオポッサムがヒットしますが、私が好きなのはそれとは違うオーストラリアの有袋動物のポッサムで、まん丸の小さなお顔とふくっとして柔らかそうな背中のラインが大好きです。


カンガルーとコアラ

次の日はカンガルーとコアラのセクションでお手伝いをしました。
カンガルーとワラビーは網で囲われた広大な敷地にたくさんいて、いくつかのグループに分かれて寛いでいました。
屋外で自由に暮らす自然に近いエリアなので、干し草をキューブにしたドライフードや野菜を餌場にセットし、その近辺に落ちている糞を熊手のような道具でかき集めて掃除する作業だけでした。
コアラのエリアでは1.5メートル程の感覚で木が3本並んでいて、それぞれの木に1匹ずつコアラがしがみついて眠っていました。
コアラは主食となるユーカリの成分で常に酔っぱらった状態1日22時間眠っているので、スヤスヤと夢を見ているような姿に癒されました。
真ん中の木のコアラをよく見てみるとお腹に赤ちゃんコアラを抱えて、親子で眠っていました。

動物好き同士の通じ合い

コアラたちが食べるユーカリを新しいものに交換する為に、施設の敷地の端にある枝の保管場所にトラックに乗ってドライブ気分で向かい、葉がたくさんついた大量の枝を運びました。
そのセクションの飼育員さんたちは若くてとてもノリが良く、トラックの荷台でかさばる枝を押さえながら「Welcome to Australia!」と盛り上がり始めたので、私も「I love Australia!」レスポンスをして一緒に盛り上がりました。
何に対しても割と大雑把なオーストラリア人には、きめ細かな作業をする日本人の性質が珍しいようで、多くの飼育員さんたちが私の仕事に感心して評価してくれ、私の動物好きが伝われば伝わるほどフレンドリーに接してくれました。
やっぱり動物が好きな人たちには互いに通じ合う何かがあるんだなぁと感じ、ますます嬉しい気持ちになりました。

続きはまた『オーストラリアの動物たちと』Vol.5にて