魅惑のオーストラリア
30歳をあと数年後に控えたある日、私は「そろそろ大人として、海外旅行も一度ぐらい経験しておいた方が良いのかも・・・」と思い立ち、動物が好きなので珍しい動物がたくさんいるオーストラリアを『初めての海外』に選びました。
せっかくの海外経験なのでホームステイや語学の勉強ができるプランを練り、クイーンズランド州のブリスベン、ゴールドコースト、ケアンズで刺激的なアクティビティーを体験し、サマークリスマスなど生まれて初めての経験を通して様々な人と交流しながら異国文化に触れ、私はすっかりオーストラリアに魅了されました。
そして帰国後、1年間の滞在が可能な『ワーキングホリデイビザ』を取得し、オーストラリアの動物園でボランティアとして働かせてもらえるラッキーなチャンスを掴んだ私は再びオーストラリアへ旅立ちました。
広がる御縁
まずはニューサウスウェールズ州のシドニーとヴィクトリア州のメルボルンで数週間ずつホームステイをし、それが終わるとメルボルンから車で2時間ぐらいの郊外にある動物保護施設でボランティアとして飼育員のお手伝いをさせてもらいました。
たくさんの動物と動物好きな人たちに囲まれて夢のような日々を送っている内に気の合う友人もでき、友人の一人から「私はWWOOF(ウーフ)のホストファミリーをしているんだけど、良かったらWWOOFER(ウーファー)として、私の家に滞在しない?」とオファーをされました。
『WWOOF(ウーフ)』とは、労力を必要とする農場などで労働するかわりに農場などの人が宿泊場所と食事を提供するという助け合いの滞在交流システムで、日本では知名度が低いですが、日本も含めた約60か国で行われています。
仲良しのお友達
その友人は『WWOOF(ウーフ)』で外国人を受け入れ、文化交流を重ねており、彼女の家での労働内容は敷地の草刈りや庭の手入れなどでした。
私はそのオファーを受け、動物保護施設でのボランティア期間終了後、彼女の家にWWOOFER(ウーファー)として滞在することにしました。
ボランティアをしていた動物保護施設から車で40分程の地域にある彼女の家は大自然の中にあり、山一つが彼女の家の敷地でした。
ログハウス風の大きな平屋の本邸から少し離れた所にWWOOFER(ウーファー)用の小さな建物があり、私はそこに滞在しました。
彼女の家には白いマルチーズと白と黒と茶色のブチ柄のオーストラリアン・キャトルドッグがおり、二匹とも私を嬉しそうに迎えてくれ、特にオーストラリアン・キャトルドッグには顔中を舐める猛烈な歓迎をされ、その夜から毎晩ベッドで一緒に寝る仲良しになりました。
日本のカレー
私はWWOOFER(ウーファー)として、本邸の掃除や敷地内の草刈り、裏山にいるヤギのお世話をこなしました。
オーストラリアで滞在した家では必ず料理を作って振舞っていたので、私は大きな街に行った際、必ずチャイナタウンで主要な調味料を買い置きするようにしていました。
ある晩、カレーを作ろうと人参を切っている私に「息子は人参が大嫌いでどんな風に料理しても絶対に食べないのよ。なかなか食べる機会のない異国の料理だから挑戦はさせるけど、もし残してしまったらごめんなさいね。」と友人が言いました。
日本では甘口のカレーは子供に大人気ですが、オーストラリアの野菜嫌いの子供にも好かれるのかと心配しながら食事を始めると、彼女の9歳の息子は「すごく美味しい!」とパクパク食べておかわりもしてくれ、人参が食べられたことに本人もビックリしていました。
お料理のススメ
私は二人に『料理の天才』と称賛されましたが「凄いのは私じゃなく日本の食品メーカーだよ(;^ω^)」と訂正しつつ、やっぱり日本の甘口カレーは子供に絶大な人気で凄いなぁと思いました。
美味しいものには人を幸せな気持ちにし、人々の心の距離を縮める力があります。
私は、自国の料理を振舞うことはとても効果的な異文化交流の手段だと考えており、実際に今まで訪れた国々で料理を作って振舞うと友好的な関係を築けました。
カレーの材料であるジャガイモ、人参、玉ねぎ、鶏肉はほぼ全世界で食べられている食材なので、日本のカレーはルーさえ準備すればほとんどの国で作れる料理です。(甘口がお薦めです!)
大きな都市には大抵、チャイナタウンやアジア系の食品店がありますから、日本で購入するより価格は多少高いですが調味料などを入手するのは難しくないと思います。
アイディア次第
卵と砂糖もほぼ全世界で手に入る食材なので、玉ねぎと鶏肉の他に醤油(めんつゆなら更に良し)さえあれば親子丼もほとんどの国で簡単に作れますし、ベジタリアン向けには鶏肉を使わないで玉子丼を作ることもできます。
海外では薄切りの肉はなかなか見かけませんが、エビやイカなどの魚介類やキャベツ、小麦粉、卵は入手しやすいので、ソースとマヨネーズがあるときはお好み焼きもよく作りました。
宗教的な食事制限やアレルギーの有無に注意が必要ですが、人との友好的な繋がりを築くのに料理は心強い助けとなりますし、何より単純にその心遣いが喜ばれるので、自国の簡単な料理はいくつかできるようにしておいた方がプラスになると思います。
お返しとして相手から得意料理を振舞われることもあり、お互いをより知るきっかけとなるので楽しいです。
新たな展開
WWOOFER(ウーファー)として生活をする中、友人が西オーストラリア州でレース犬のトレーナーをしている従妹に連絡を取り私を紹介してくれ、私はその従妹の下でアシスタントをすることになりました。
ドッグレースとは、競馬のような要領でグレイハウンドというシャープな体系の大型のレース犬が走る競争で、レース場も競馬場とほとんど同じ様式です。
友人の従妹は約50匹のレース犬のトレーナーとして活躍しており、大事なレースを控えているのでそれが終わり次第、私を受け入れてくれるとのことでした。
私は西オーストラリア州で仕事のお手伝いをする前に、受け入れ日までの期間を利用してヴィクトリア州や南オーストラリア州で観光旅行をしてみたいと思い、WWOOFER(ウーファー)としての生活を終えてメルボルンに向かいました。
華やかな行事
メルボルンでは11月上旬に大きな競馬の大会があり、街中がお祭りのように賑わいます。
紳士淑女が正装をして競馬場に出掛け、シャンパンを飲みながらレース観戦を楽しむのが恒例となっており、女性はゴージャスなデザインの帽子でドレスアップをします。
私はメルボルンの一番大きな駅の近くにあるバックパッカーズホステルに滞在していたので、そこで出会った日本人の若者たちと一緒に観光客として競馬場に出掛け、レースを楽しむ地元の華やかな人々を遠目に異国文化の雰囲気を現地で実際に味わい満足しました。
メルボルンはオーストラリアで二番目に大きな都市で、住みやすい規模の環境が私は好きでしたが、動物保護施設でボランティアをする前に滞在していたので、まだ訪れたことのない南オーストラリア州のアデレードへ早々に移動することにしました。
アデレード行きバスツアー
ただ高速バスに乗ってもつまらないので、メルボルンを出発してグレートオーシャンロードなどの観光スポットを巡りながらアデレードに向かう5日間のバスツアーに参加しました。
私は出発日に念の為、約束の時間の15分前からバスを待っていたのですがなかなかバスが来ず、もしかして待機場所を間違えたのではないかと不安になり、何度もツアーの案内書を確認しながらオロオロしていました。
1時間以上が過ぎ、ようやく着いたバスから軽やかに降りてきた運転手兼ツアーガイドの男性は「やぁ、僕がこのツアーのガイドだよ!5日間、最高の旅にしようね(^o^)/」と爽やかな笑顔で私をバスに乗せ、ノリノリでバスを出発させしました。
私はそのとき「さすがはオーストラリア人。これからの5日間は当然オーストラリア流のツアーだと覚悟せねば・・・」とお国柄の違いを噛みしめました。
グレートオーシャンロード
ツアー参加者はイギリス、ドイツ、イタリアなどから来た大学生や社会人の女性で、私を含む8人のメンバーはみんな一人旅中でした。
初日はグレートオーシャンロードをドライブし、不思議な横縞模様が入った断崖と『12使徒』と呼ばれる岩々が海にそびえ立つ神々しい風景に心を奪われました。
2日目は、グレートオーシャンロードの上空をヘリコプターで観覧飛行しました。
私はジャンケンで負け、窓の面積が大きい4人乗りヘリコプターの後部座席に座ったのですが、ヘリコプターに乗るのが初めてだったので後部座席からでも眼下に広がる壮大な景色は迫力があり過ぎるくらいでした。
その後はオーストラリアの動物が見られる自然公園に行きコアラ、カンガルー、ウォンバットなどを写真に撮り、アボリジニ文化であるブーメランの体験をしました。
大自然のアクティビティー
3日目は緑が茂る森の遊歩道を散策した後、山道をバスで進み、とある洞窟に到着しました。
私はその日のスケジュールに『ウォーターフォール』という言葉があった気がしたので滝を見に行くのかと思っていたら、実際の記載は『ウォーターホール』で、到着した洞窟の中にある直径6メートル程の大きな穴に自然にキレイな水が溜まっており、そこで泳ぐというアクティビティーでした。
曇っていて少し肌寒かったので私は泳ぎませんでしたが、イギリス人とイタリア人の女性たちが泳いところ水がだいぶ冷たかったようで、二人とも唇が紫色になっていました。
4日目はクルーザーに乗って小さな島の近くへ行き、そこに住むアザラシたちと一緒に泳ぎました。
野生のアザラシなのですが、島に近い海岸沿いに住んでいる人たちに慣れているからか人間を警戒することなくフレンドリーに接してくれました。
アザラシとのスキンシップ
クルーザーの船長が私の水色の使い捨て水中カメラを見て「これをアザラシに見せたら、きっと珍しがって寄ってきてイイ写真が撮れるよ。」と教えてくれました。
アドバイス通りに水中カメラで気を引いてみると、アザラシたちは私の周りに寄ってきたので、かなりアップの写真が撮れました。
今度は船長から「カメラを自分の頬の近くに持ってきてごらん」と言われたのでそうしてみると、一匹のアザラシが私の頬にくっつけたカメラを鼻先でツンツンと押し始め、私がカメラをそっとよけるとそのまま私の頬に鼻先でキスしてくれました。
ヒゲが細い針金みたいでゴワゴワした感触でしたが、貴重なスキンシップにテンションが上がりました。
アザラシたちと泳いだ後はクルーザーで沖まで出て釣りをしました。
良いスポットだったようで、ツアーの参加メンバー全員が魚を釣ることができました。
素敵な船長
船長は釣った魚を船上でさばいてお刺身にしてくれ、小皿に醤油も用意してくれました。
以前、日本人をホームステイで受け入れて以来、日本人と日本文化が好きになり、自分は食べないけど日本人観光客の為に魚をさばいて刺身にし、醤油と共に振舞うようになったとのことで、私は大喜びで遠慮なくたくさんいただきました。
船長の優しさを感じながらいただく新鮮な刺身の味は格別でした。
ツアー参加者の中で唯一の日本人である私に特に親切に接してくれた船長は『キャプテンサンタ』のような白いヒゲがよく似合うとても素敵な船長でした。
刺激的で充実した日々はあっという間に過ぎ、5日目の午後にアデレードへ到着してメルボルンからのバスツアーが終了すると、私は初めて訪れる南オーストラリア州での滞在をスタートさせました。
続きはまた『オーストラリアの動物たちと』Vol.8にて