再びオーストラリアへ
ずっと海外旅行に興味がなかった私は、ある日「そういえば、30歳まであと数年となったなぁ・・・」と考えた際に、ふと「そろそろ大人として、海外旅行も一度ぐらい経験しておいた方が良いのかも・・・」と思い「せっかく行くならホームステイと語学の勉強をして何か月か滞在しよう!」と思いつきました。
動物好きな私は、珍しい動物がたくさんいるオーストラリアを『初めての海外』に選び、ブリスベン、ゴールドコースト、ケアンズで大自然の探検や刺激的なアクティビティー、サマークリスマスなど生まれて初めての素敵な経験をしてすっかりオーストラリアに魅了され、絶対にまたオーストラリアに行こうと決めました。
今度は1年間の滞在が可能な『ワーキングホリデイビザ』を取得し、充実した長期滞在生活を送る為に時間をかけて準備を進め、オーストラリアの動物園でボランティアとして働かせてもらえるラッキーなチャンスを掴んだ私は、再びオーストラリアへ飛び立ちました。
ワイルドなランチ
シドニーとメルボルンでホームステイをした後、メルボルンから車で2時間ぐらいの郊外にある動物保護施設でボランティアとして働き始め、カモノハシやポッサム、カンガルー、コアラ、ディンゴなどのお世話をさせてもらい、動物三昧の夢のような日々が続きました。
丁寧な仕事が評価され飼育員さんたちに受け入れてもらえるようになり、お休憩時間はよくお喋りで盛り上がりました。
日本人は朝昼晩の三食ともしっかり食べるのが一般的ですが、オーストラリアでは朝と昼は軽くしか食べず、晩御飯だけ主食とメインの肉や魚、野菜を一枚の大きなお皿に盛りつけた『ワンプレートディッシュ』をしっかりと食べます。
なので、結構身体を動かすのに飼育員さんたちのランチはリンゴ1個だったり細いニンジン数本をそのまま丸ごとボリボリ食べるのが普通で、初めの頃はランチにサンドイッチを食べていた私もニンジンをワイルドに丸かじりするようになり、気分はすっかりオーストラリア人でした。
DIYと達成感
猛禽類のセクションでは、フクロウやミミズクの新しい止まり木を作る為に保護施設の敷地にある森から丸太を運び、ノコギリで切ったり紐でくくったりしてDIYな作業に励みました。
せっせと働く私の様子を目をパチクリさせたり首をぐるりと一周回させたりしながら珍しそうに観察する可愛らしいフクロウやミミズクたちを前に私は「快適な止まり木を作るから待っててね!」と、かなり高めのテンションで仕事をしました。
飼育員さんたちと力を合わせて完成した止まり木はなかなかの出来で、古い止まり木と交換してセットするとフクロウやミミズクたちは次々と移動して寛いでくれたので「頑張った甲斐があったね!」とみんな満足し、紅茶で乾杯をしました。
屋外では鷹が飛ぶ姿を披露するパフォーマンスがあり、私の頭上スレスレを優雅に飛んでいく鷹に感動しました。
鷹匠の女性が大きくて凛々しい鷹を特別に近くで見せてくれ、鷹と寄り添って記念写真を撮りました。
タスマニアンデビル
その動物保護施設にはタスマニアンデビルという、タスマニア島に生息する小さなクマのようで顔はアナグマに似た有袋類もいて、常に活発に動き回っていました。
キュートな見た目とは裏腹なアグレッシブさを持つ肉食動物で、骨をかみ砕く強靭な顎を持っていて危険なので、私は柵越しに見ているだけでした。
1匹のタスマニアンデビルがケガをしてしまい、動物保護施設内の動物病院で手術をすることになったのですが、どうやって捕獲して動物病院まで運搬するかが課題となり、なるべく麻酔銃を使わないようにしたいということで、その動物保護施設のボス飼育員の女性が負傷のリスクを覚悟の上で捕獲を試みることになりました。
滅多にないことなので、多くの飼育員さんや獣医さんたちが見守る中、経験豊富な女性飼育員さんが緊張の表情でタスマニアンデビルのテリトリーに入ると、ケガをして気が立っていたタスマニアンデビルは興奮して暴れるように走り回りました。
貴重なシーン
走り回るコースを読んで女性飼育員さんが捕獲用の布袋を素早く構えると、なんとタスマニアンデビルは奇跡的にその袋の中にスポッと頭から突っ込み、あっという間に捕獲完了となりました。
あまりの予想外の展開に女性飼育員さんをはじめ、誰もが一瞬キョトンとしましたが、すぐに驚きと安堵の拍手で溢れました。
ゴソゴソと抵抗して暴れるタスマニアンデビルが入った布袋を片手に歩く女性飼育員さんを先頭に私たちは動物病院へ移動し、タスマニアンデビルの手術が行われました。
獣医さんが手術台に置かれたタスマニアンデビルの鼻先に手際よく麻酔マスクを当てるとタスマニアンデビルはコロリと横になり、手術はスムーズに進みました。
勤続の長い飼育員さんたちにとってもタスマニアンデビルの捕獲と手術は貴重な機会で、私もその場で見ることができた偶然はミラクルだなぁと思いました。
動物のお世話をするのには愛情や優しさだけではなく、時に度胸や力強さも必要なのだと知りました。
ウォンバットの巣立ち
オーストラリアにはウォンバットという、コアラのような鼻をした全体的に丸くてモッサリしている有袋類もいます。
飼育員さんにベッタリの子供のウォンバットは、まるでぬいぐるみのような愛くるしさで、飼育員さんも溺愛のようでした。
子供のうちは常に母親にくっついて離れないとのことで、まだ小さなウォンバットは飼育員さんの足に一生懸命すり寄っていました。
ですが大人になると急に自立意識に目覚め、ある日突然、母親に助走をつけてタックルをして攻撃し、親からも他のウォンバットからも遠く離れた所に自分だけのテリトリーを作って暮らし始めるのだそうです。
飼育員さんは「私を寄せつけなくなる日がきたら、成長の証と思って淋しくても喜んで受け入れなくてはいけないんだよ・・・」と教えてくれました。
「人間にも親離れや子離れの時期はくるけど、いきなり敵意むき出しでタックルをされたらショックでツラいだろうなぁ・・・」と、切ない気持ちになりました。
嬉しい出逢いとオファー
お茶の時間に休憩室に向かう途中、動物用の食糧貯蔵室の前で小柄な女性が野菜や果物が入った段ボール箱を一人で運んでいるのを見かけたので、私はお声掛けをして手伝いました。
二人で全ての段ボールを運び、野菜やフルーツを動物の餌用にカットする作業も手伝うと、その女性は私に紅茶とクッキーを出してくれ一緒にお休憩をとりました。
お喋りをしている内に私たちは親しくなり、私は毎日のように食糧貯蔵室に顔を出してお手伝いをするようになりました。
その女性は動物たちの為に食糧を合理的に調達し経費を削減する方法を考え提案し実際にそれを実行している、クリエイティブで行動力のある素敵な女性でした。
その女性に、動物保護施設でのボランティア期間が終了した後の滞在予定を聞かれ、特に決まっていないと答えると「私はWWOOF(ウーフ)のホストファミリーをしているんだけど、良かったらWWOOFER(ウーファー)として、私の家に滞在しない?」とオファーされました。
動物好きの御縁
『WWOOF(ウーフ)』とは、労力を必要とする農場などで労働し、農場などの人は宿泊場所と食事を提供するという、助け合いの滞在交流システムです。
日本では知名度が低いですが、日本も含めた約60か国で行われています。
その女性は『WWOOF(ウーフ)』で外国人を受け入れ文化交流を重ねており、お手伝いの内容は家の敷地の草刈りや手入れなどでした。
また、オーストラリアには『ドッグレース』という競馬のような犬のレースがあり、その女性の従妹が西オーストラリアでレース犬のトレーナーをしているとのことで「もし、もっと動物関係の仕事がしたいなら、トレーナーアシスタントとして犬と一緒に働いてみない?私の従妹にあなたを紹介するわよ。きっと良い経験になるわ。」と言われ、私はどちらのオファーも喜んで受け「動物好きにはお互い通じるものがあって、素晴らしい御縁で繋がっていくものなんだなぁ・・・」と、とてもワクワクした気持ちで新たな展開に胸を躍らせました。
続きはまた『オーストラリアの動物たちと』Vol.7にて