ブログを始めた頃の記事を、現在の書式スタイルに編集して掲載し、皆様にぜひご覧頂きたいと思いました。
どうぞよろしくお願いいたします(^^)/
Vol.5『おばあちゃんの知恵袋』
今年で100歳になった大正生まれの私のおばあちゃんは、有り難いことに今も元気に暮らしています。
おばあちゃん子の私は、おばあちゃんにたくさんの愛情をもらいながら育ちました。
ここでは、おばあちゃんが私にしてくれた愛情溢れる行動のほんの一部を紹介しようと思います。
タンコブと梅の漬け汁
幼稚園に入ったばかりの頃、私は壁に頭をぶつけてタンコブができてしまいました。
痛がって泣き続ける私のタンコブを早く治してあげようと、おばあちゃんは自慢の知恵袋から一番良い方法を選び、自家製の梅とシソが漬け込んである壺をもってきて、たっぷりと漬け汁を含ませた赤いシソの葉を、私のタンコブの上にふんだんに乗せました。
私は「おばあちゃん、なぜ食べ物を私の頭の上に?!」と戸惑いながら、「これをつければもう大丈夫だからね」と微笑むおばあちゃんの隣で、顔に垂れてくる梅の漬け汁を拭くのに必死で、コブの痛みは続いていましたが、もはやそれどころではなくなり、早々に泣き止んだ記憶があります。
梅の漬け汁がコブの痛みに効果的だったかは未だに不明ですが、痛みで泣いている子供を泣き止ませるのには効果的だったと言えるのかもしれません。
しもやけとミョウバン
日本海のすぐ側で生まれ育った私は、冬の冷たい海風で手がかじかみ、毎年しもやけになって大変な思いをしていました。
両手が野球のグローブのように腫れ上がり、指が曲げられず箸を持つのも難しく、冷えれば痛くなり、温めれば痒くなるという、どうにもならない酷い状態のしもやけを見て、幼い孫の両手を何とかあげたいと思ったおばあちゃんは、私の為に自慢の知恵袋から治療法を探り出しました。
茄子のお漬物を作る際に、鮮やかな青紫色にする為に使うミョウバンを持ってきて、洗面器に入れたお湯に溶かして私の前に置き、「これに手を浸すと、血行が良くなってしもやけが治るからね。」とおばあちゃんは微笑みました。
促されるままミョウバンを溶かしたお湯に両手を浸す私の横で、おばあちゃんは「これで大丈夫」と一安心していました。
そして数日が過ぎましたが、私のしもやけは一向に良くならず、むしろ段々と手が青紫色に変化していきました。
ミョウバンは確かに血行を良くする作用があるらしいのですが、肌質によっては色素沈着を起こすらしく、私の手はそれからしばらく、立派な青紫色のグローブと化してしまいました。
風邪とネギ
小学4年生の時に風邪をこじらせてしまい、学校を何日も休んだ私を気遣ったおばあちゃんは、久しぶりに登校する日の前夜「可愛い孫に、もう二度と風邪など引かせまい!」と、自慢の知恵袋からとっておきの予防法を取り出しました。
長ネギは風邪の予防に効くからと、私の首に軽く炙った1本の長ネギをぐるりと巻いたのです。
「おばあちゃん、なぜ野菜を私の首に?!」と、私はタンコブに梅の漬け汁をつけられたとき以来の衝撃を受けましたが、まだ子供だったので「きっとおばあちゃんが言うのだから間違いないのだろう」と思い、おとなしく首に長ネギを巻いて寝ました。
次の朝、おばあちゃんは「学校にも巻いて行けるようにカッコよくしたからね」と、タオルで包んだネギを私の首に巻きつけました。
タオルで包んでもネギを首に巻いて出掛けるのは恥ずかしかったのですが、自分の為に一生懸命にしてくれるおばあちゃんの優しい笑顔を曇らせたくなくて、私はネギを巻いたまま登校しました。
純朴なクラスメイト
学校に着き教室に入ると、クラスメイトはすぐに長ネギのニオイと私が首に巻いているタオルに気付き、私を囲んで物珍しそうに眺めていました。(そりゃそうだ!)
久し振りの登校な上に、首に長ネギなんか巻いてきて、クラスメイトに何を言われるのかと、私はドキドキしていたのですが、そこは昭和時代の田舎の小学生、馬鹿にするのではなく「なんだかスゴイものを巻いていて特別な感じだぞ」「仮面ライダーのスカーフみたいでカッコイイ」「できれば自分も試したい」という予想外の反応で、私はその日の話題の中心となり、一躍してヒーロー的な扱いを受けました。
その日、家に帰ってから早速、風邪予防の為に首に長ネギを巻いてもらったというクラスメイトが何人もいて、おばあちゃんの知恵はちょっとしたブームになりました。
おばあちゃんの知恵と、首に長ネギを巻いた私の姿が学校で笑われるんじゃないかと心配していた私は「純朴で素直なクラスメイトに恵まれていて良かった・・・」とホッとしました。
ハンドルカバー
中学生になった私は、雨の日も風が強い日も自転車で通学しなくてはいけませんした。
幼い頃、おばあちゃんお薦めのミョウバン湯によって青紫色のグローブと化した手が、風雨にさらされてますます痛そうな様を見て、可哀想な孫の為に何とかしてあげたいと思ったおばあちゃんは、今度は自慢の知恵袋からではなく自分の自転車からシニア感漂うハンドルカバーを外して私の自転車につけてくれました。
私はもう中学生でお年頃だったので「さすがにこれは恥ずかしいなぁ・・・」と言うと、おばあちゃんは「任せて!」と近所の自転車屋さんに向かい、赤い縁取りが素敵な白い本革のハンドルカバーを買ってきて「これなら大丈夫!」と微笑みました。
せっかくのおばあちゃんの厚意を断るのも気が引けたので、とりあえず素直に使ってみたところ、実際に暖かくて便利だったのですが、いくら田舎の純朴な子供とはいえ、さすがに思春期で恥ずかしかったので、少しの間だけハンドルカバーを使い、その後は「おばあちゃんに貰った手袋を使うことにしたから」と言って、そっとハンドルカバーを外しました。
更なる強者
高校に通うようになると、いろんな地域に住む友人ができました。
たまたま話の流れで、小学生のときに首に長ネギを巻かれた話をしたところ、新しい友人から「私は中学生の頃、熱で寝込む度、おばあちゃんに4センチぐらいに切った生の長ネギを鼻に詰められてたよ。」と、私の経験を遥かに上回る、パンチの効いた強烈なエピソードが飛び出しました。
「鼻に生の長ネギを・・・しかも中学生で・・・それはニオイも状況もあまりにキツイ・・・」と衝撃を受けた私は「あぁ、ウチのおばあちゃんがその知恵を持ち合わせていなくて本当に良かった~!」と胸を撫で下ろしました。
そのとき私は、おばあちゃんがいつも私に言っていた「どんな事柄においても、必ず上には上がいるものだ。自分の目に見えているだけの小さな世界で『自分が一番だ』なんて過信してはいけないよ。」という言葉を思い出し、心から実感しました。
長い冬が終わったら、そんな様々な思い出を胸に、私の為にいつも一生懸命に手を尽くしてくれた大好きなおばあちゃんに会いに行こうと思います。
この記事を書いたのは2016年11月です。
おばあちゃんは現在101歳、お陰様で病気もせず元気に長生きをしてくれています。
2018年のゴールデンウィークも、お土産をたくさん持って会いに行く予定です★