ワンランク上の楽しみ
昨年の10月にたまたま訪れた、果物と数々のワイナリーが有名な地域の自然いっぱいの施設にはワイン葡萄の畑があり、昨年の11月からそちらでワイン葡萄の栽培作業に参加させてもらっています。
ワイン好きが高じ、趣味の範囲で『ワインスクール』や『ワイングラスセミナー』、ソムリエが主催する『ワインイベント』などに積極的に参加していた私にとって、ワインを飲むだけではなくワイン葡萄を栽培して『ワイン造りに携われる世界』に少しでも足を踏み入れ、体験しながら新たに学習ができるのは、ワンランク上のとてもゴージャスなチャンスで、この貴重な御縁にただただ感謝でした。
最高のスタート
作業のスタートも不思議なくらいタイミングが良く、来シーズンの良き実りにつなげる為に、既に収穫を終えた葡萄の木の不要な枝を切り落としてかなり身軽にし、雪の下で冬を越させる準備の『剪定』という作業からから始めることができました。
毎年11月には雪が降り始める地域なので覚悟はしていましたが、昨年は剪定作業をする前にしっかりと雪が積もってしまうという異例の事態に慌てました。
でも、私が選定作業に参加する予定の週末にはすっかり雪も溶け、畑のコンディションにも問題なく、お天気も味方につけての最高のスタートとなりました。
葡萄の木の目覚め
そのワイン葡萄の畑がある地域はそこそこ遠く、子育てをしていて自由な時間を自分の為だけに好きに使うということが難しい状況の私は、まずは大まかな要所要所の作業に参加させてもらうことにしました。
雪が溶けた4月には、冬の間ずっと雪の下で眠っていた葡萄の木たちを葡萄棚に括りつける『棚上げ』をしました。
重い雪の下で何か月も眠り続けていた姿勢のまま、なかなか言うことを聞いてくれない頑固な枝を、ポキッと折ってしまわない程度に上手にしならせながら、葡萄棚の一番下の段に紐でくくりつけて、葡萄の木たちを起こす作業でした。
心地良い時間
初めての経験なので最初はかなり手こずっていましたが、慣れてくると段々とコツがわかってきて職人気分で作業をしていました。
最終的にはいかに美しく葡萄の木と葡萄棚が融合したアート作品を作れるかという、芸術家のような感覚で作業をしていました。
葡萄の木の栽培作業を指導してくれる近所のワイナリーのオーナーに作業の仕上がりを褒められ嬉しかったです。
私は人と話すのも好きですが、独りで集中して作業に没頭するのも大好きなので、澄んだ空気と大地に囲まれながら自分だけの世界を楽しめるそのひと時がとても心地良く幸せでした。
特別な事情
葡萄の木に葉がしげり、ミニチュアの葡萄のような可愛らしい芽がたくさん出始めた6月には、同じ木で葡萄たちが養分を取り合って栄養不足にならないように余分な芽を取り除く『芽欠き』と、葉が葡萄に当たるべき日光を遮らないように不要な葉を落とす『除葉』の作業をしました。
そのワイン葡萄畑はしばらく放置されていて、昨年から素人の手により栽培が再開された状態だったので、2年目の今年はまだ葡萄の木を整える為の課題がいっぱいで、栄養がまだ不足で芽も葉もつき方が少ないので『取り除きすぎない』という普通とは逆のルールで作業をしました。
できなかった作業
その後の作業としては、葉についた害虫の除去や葡萄の木の栄養を横取りしてしまう雑草の除去が繰り返し必要になるとのことでした。
他には、伸びてきた葡萄のツルを葡萄棚の上の段に誘導して紐で結ぶ『誘引』と、更なる『除葉』があり、実がついて成長してくると、カビや病気にやられないようにマメなチェックと手入れが必要でした。
農薬を使わずに栽培するという方針だったので、かなり大変そうだと思いました。
私は娘の夏休みがある7月8月、行事が多かった9月はワイン葡萄の畑に足を運ぶことができないまま過ぎてしまいました。
収穫日の決定
そして、1シーズンを通してのメインイベントとなる『収穫』の時期となりました。
葡萄の収穫日は葡萄の成長具合や葡萄が病気になったりカビがついたりしないかなど、いろんな状況を考慮した上で決められ、早すぎると葡萄の糖度が足りず、遅すぎると病気やカビで葡萄がダメになり収穫できなくなるので、判断がとても難しいようでした。
そのワイン葡萄の畑の場合は、本当ならあと1週間ぐらい収穫日を伸ばして糖度を上げたいところだったのですが、人手を集めるタイミングや施設のイベントの都合で、理想の収穫日より1週間早い収穫日が決定されました。
合わないタイミング
その決定された収穫日は不運にも前から入っていた予定と重なってしまいました。
ワイン葡萄栽培のメインイベントとなる『収穫』に参加する為に、その予定をキャンセルすることもできたのですが、それは娘の為の計画で、娘の短い子供時代は今だけなので、今年は自分が栽培に関わったワイン葡萄畑での『収穫』を残念ながら諦めることにしました。
その葡萄畑の実りは、昨年よりは豊作とのことでしたが量がそんなに多くはないので、あっという間に終わったとのことでした。
来年は枯れた木を抜いて新しい苗木を植えるとのことで、その作業も楽しみです。
ラッキーなチャンス
ワイン葡萄の収穫のチャンスを逃したことを残念に思うよりも、今シーズンに体験できなかったワイン葡萄の栽培作業があることを踏まえて、来シーズンはどんな風にワイン葡萄の栽培作業に関わっていくかを考えようと、頭の中でいろいろシュミレーションをしていると、1通のメールが届きました。
ワイン葡萄の栽培を指導してくれ、私が栽培に関わった畑のワイン葡萄を醸造してくれているワイナリーで収穫のお手伝いをさせてもらえるとのことで、とても嬉しく思いました。
繋がりが深いワイナリーでのこのチャンスに不思議な御縁を感じました。
農作業のスタイル
ワイン葡萄の収穫作業の当日は午前4時に起き、タクシーで駅に行き午前7時の電車に乗り、午前8時に電車を乗り換え、午前8時半に駅でピックアップしてもらい現地に向かいました。
いつもは家の近くのバス停からバスに乗り、乗り換えなしで現地の駅まで行くので農作業の格好のままでも全く気にならないのですが、今回は街の中心の駅から電車に乗るので、早朝で人が少ないとはいえちょっぴり恥ずかしかったのですが、ガラスに映った、モスグリーンの長いダウンコートにオレンジ色の長靴姿の私は、ハロウィンのディスプレイと意外とマッチしていました。
大自然の美術館
ワイナリーに着くと広い土地いっぱいにワイン葡萄棚が広がっていました。
プロが手掛けているだけあり、そのワイン葡萄畑はとても美しく、まるで自分が1枚の絵画の世界に飛び込んだような感覚になりました。
規則正しく整列したワイン葡萄の棚には、葡萄の木の枝やツルが一定方向に、均等なバランスで伸びており、夕焼けのような濃く鮮やかなオレンジ色の葉をまとっていました。
葡萄棚の1段目には黒に近い紫色の立派な粒が連なった葡萄の房がたわわにぶら下がっていて、オーナーの栽培技術と大地によって作られた『大自然の宝石』のように輝いていました。
収穫用のハサミ
ワイナリーのオーナーに収穫用のハサミを渡され、使い方や収穫の仕方を教わりました。
収穫用のハサミは、剪定用のガッチリとしたものとは違い、小学生が工作で使うようなサイズのハサミで、持ち手を中心に片方にはハサミの刃が、もう片方にはピンセットのような金属がついていて、持ち変えることなく手首をちょっと返すだけでどちらも使える造りになっていました。
葡萄の房は太い枝に実った『一番なり』だけを切り、枝から出たツルに実っているものは『2番なり』『3番なり』でまだ養分を十分とっていないので、もう少しそのままにしておくとのことでした。
伝わる情熱
たわわに実ったワイン葡萄の重さに、ワイナリーのオーナーが1シーズンを通してワイン葡萄栽培にかけた情熱と日々の努力を感じました。
葡萄の房を手に取って傷んだ実を取り除き、完璧な状態に仕上げてケースに並べていく作業は、ポテンシャルの高い素材をきちんと整えて世に送り出す『プロデューサー』のようで、センスを要する大事な任務に感じられました。
丁寧に手を掛けられることにより、このワイン葡萄たちが奥深い味わいのワインへと変身していくのだと考えると、ワインを飲む楽しみが以前よりも更に増し、作業にも熱が入りました。
『ワイン体験レポート10月』Vol.2へ続く