現場へのデビュー
私は今年の春から高齢者向けのデイサービスセンターで働いています。
私には「人生で一度は自分で事業を展開してみたい」という夢があり、まずはできることを増やそうと様々な仕事をしながらスキルアップを図ってきました。「自分がやりたいことは何だろう?」と模索し続け、仕事や人との不思議な御縁から「私が展開したいのは福祉関連の事業かもしれない」と感じるようになりました。
そこで、福祉についてより深く知る為に6カ月間コースの学校に通い3つの福祉系資格を取得し、この3月に学校を卒業しました。
その資格を活かして働ける職場を在学中に決め、さっそく現場で『福祉の実践』に挑戦しています。
学習の必要性
40代後半から新たな勉強を始めて多くの試験をクリアするのも、初めての現場で多様な業務を覚えるのもかなり大変でしたが、働き初めて4カ月程が過ぎた今は仕事の流れやある程度の技術が身につき、精神的にも体力的にも環境に順応できてきました。
介助を必要とする高齢者の方々と実際に関わり日々を過ごしていると、現場にいるからこそ見えてくる状況や考えさせられることが多々あります。
また、その考えは高齢者について学校で学んだ知識に基づいているので、福祉の仕事には現場で身につける技術と共に科学的根拠の学習も大切なのだと実感しています。
今回は『認知症』について少しお伝えしたいと思います。
認知症の症状
『認知症』とは脳の細胞が破壊されて減少し、脳の働きが低下して日常生活が正常に送れない状態をいいます。
その症状には脳機能の低下による『中核症状』と、『中核症状』が原因となってもたらされる『行動症状』と『心理症状』を合わせた『周辺症状』というものがあります。
◆ 脳機能の低下による『中核症状』には以下のようなものがあります。
① 記憶障害
酷い物忘れ、新しい記憶が抜け落ちるなど。
② 判断力低下
正しい方を選べないなど。
③ 理解力低下
新しいルールが飲み込めないなど。
④ 失語
言葉が出てこない、言葉の意味が分からず会話のつじつまが合わないなど。
⑤ 失行
服をうまく着ることができない、箸やハサミなどの使い方がわからないなど。
⑥ 失認
目の前に何があるか認識できずにぶつかる、時計の数字を認識できないなど。
⑦ 見当識障害
時間、場所、人物がわからないなど。
⑧ 実行機能障害
慣れているはずの作業(料理や買い物など)が段取り良くできないなど。
◆『中核症状』が原因となってもたらされる『行動症状』には以下のようなものがあります。
① 多弁、多動
お喋りが止まらない、じっとしていられないなど。
② 暴言、暴力
急に怒りだす、攻撃的になるなど。
③ 排泄トラブル
失禁、弄便(便を手にとったり手で拭ったりする)など。
④ 徘徊
歩き回って帰られなくなるなど。
⑤ 食行動異常
過食、拒食、異食(食べ物以外のものを食べる)など。
◆『中核症状』が原因となってもたらされる『心理症状』には以下のようなものがあります。
① 昼夜逆転
夜になると興奮して大声を出すなど。
② 幻覚
無い物が見えたり、聞こえない音が聞こえたりするなど。
③ 妄想
悪口を言われている、裏切られているなどと思い込むなど。
お金や物を盗まれたと思い込む『物盗られ妄想』など。
④ 不安、抑うつ
できないことが多くなることで落ち込んだり不安を感じたりするなど。
認知症の種類
認知症になったら、全ての症状があらわれるという訳ではありません。
『認知症』には以下の4つの種類があり、それぞれ原因や特徴が異なるのであらわれる症状も異なります。
① アルツハイマー型認知症
・最も多い認知症で女性に多い。
・記憶をつかさどる脳の海馬の委縮や、老化によってできる脳のシミ(老人斑)が増えるのが原因。
・初期は記憶障害がみられ、大脳の機能(脳のほとんどの機能)が低下し、いずれは寝たきりになる。
② レビー小体型認知症
・2番目に多い認知症。
・特異なタンパク質が脳の神経細胞にたまりレビー小体ができることで神経細胞が壊れ減少するのが原因。
・症状はレビー小体ができる部位によって異なり、脳の側頭葉の場合は物忘れ、後頭葉の場合は幻視があらわれる。
・パーキンソン病の症状のような手の震え、小刻み歩行、手足のこわばり、無表情の他に、便秘、失禁、立ちくらみなどがあらわれることもある。
③ 脳血管性型認知症
・男性に多い。
・脳梗塞(脳の血管が詰まる)や脳出血などによる脳血管障害により、酸素や栄養が脳に送られず脳細胞が死滅するのが原因。
・物忘れ、手足の震え、麻痺などの症状があらわれる。
・脳細胞の死滅範囲やその部位によって症状が異なる。
④ 前頭側頭型認知症
・50~60代で発症する。
・高度な判断を行う脳の前頭葉と側頭葉の委縮が原因。
・他人に配慮することができず、状況を考えないで思い通りの行動をする性格変化や行動異常(暴力、暴言、性的逸脱など)があらわれる。
・同じ行動を繰り返したり、物事に無関心になったりする。
様々な状態
認知症の進行状況によってもあらわれる症状は異なり、日や時間帯によってあらわれ方が違う場合もあります。
何種類かの認知症が併発している場合もあるので、適切な対応をするには洞察力が必要だと思います。
認知症の手前の状態で、日常生活は自立できている『軽度認知障害(MCI)』や脳の傷病が原因で認知症に似た症状があらわれる『高次脳機能障害』にも適切な理解と対応が必要なので、対象は高齢者に限った話ではありません。
認知症に関する知識や科学的な根拠は、適切な対応を考える際の助けになると思います。
暴言や暴力の理由
暴言や暴力、迷惑行為が『前頭側頭型認知症』によるものならば「あなたは間違っている!ルールは守って!」と訴えても効果はありません。
脳が障害され自分の行動や感情を上手くコントロールできず、なぜそれが良くない行動なのか認識できなくなっている状態なので、指摘される理由がわからず戸惑い混乱し、その不満がさらに大きな暴言や暴力、迷惑行為につながることもあります。
他の認知症でも、できていたことができなくなったもどかしさや自分の状況がわからない不安、理解してもらえない悔しさや怒りから段々と我慢ができなくなり、周りからの指摘を『攻撃』と感じて抵抗し、頑なな拒否感情が暴言や暴力に発展してしまうこともあるのです。
メッセージ
私は学校で「認知症の方は困っています。わからないことやできないことが多い毎日が不安で、一番困っているのは認知症である本人なんです。」と何度も教わりました。
「行動には必ず理由があるものです。」とも教わりました。
福祉の仕事をするなら、正しい判断ができない状態の人に頭ごなしに正しい事実を突きつけ指摘するのではなく、行動の理由を探りその人が置かれている状況や困りごとを知った上で助けになろうとする優しさと思慮深さを持って欲しいというメッセージだったのだろうと思います。
現役で福祉の仕事をしている先生方の言葉は、現場にいる人間にだからこそ持てる感性が伝わる内容で私の胸に深く刺ささりました。
優しさと強さ
過酷で辛い仕事の経験談を話してくれた先生の「努力しても相手に伝わらず、どうにもならないこともあります。心も身体も痛みます。でも、まずは努力してみるという姿勢が大事ではないでしょうか。」という言葉が特に印象に残っています。
その先生の大きな優しさと心の強さこそが『福祉の精神』なのだろうと感じた私は尊敬の念を抱き、出逢えた御縁に感謝しています。
自分の態度や言動次第で結果が良くも悪くも変わってしまうことが日常には多いので、認知症の方や高齢者に限らず誰に対しても接する際のマナーを忘れないように心して『福祉の実践』を続けていこうと思います。
また近況報告と共にいろんなことをお伝えしていきますね (^-^)